体がふわふわと浮いているような気がする。 そして、何か温かいものに包まれてるような気もする。 その温かさはあの人のぬくもりを思い出させた。 『ローズさん……』 「う〜ん……ん?」 ヒグラシは見知らぬ部屋で目を覚ました。 「……ここ、どこだろう……」 グリーンさんと飲んでたはずなんだけど……あれから、どうなったんだっけ? ヒグラシは必死にさっきまでの状況を思い出そうとしたが思い出せない。 どうやら途中で意識を飛ばしてしまったようだ。 ヒグラシは自分のいる部屋を見回した。 自分が横たわっている大きなベッド。 生活感のないシンプルな部屋。 部屋の中にはチェストやテーブルが配置されている。 どう考えてもヒグラシのすんでいる安アパートではない。 扉がいくつかついているがあれは何処につながっているのだろう。 「う〜ん……まだ頭がボーっとしてるなぁ……」 まだぼんやりした頭でヒグラシが状況を考えていると、部屋にある扉のうちの一つが開いた。 そこから現れたのは……。 「おや、ヒグラシ目覚めたかい?」 今、一番会いたかったその人だった。 「ローズさん……?」 「ずいぶんとお酒を飲んでいたみたいだけど……大丈夫?気持ち悪かったりしない?」 どうやら扉の先はバスルームだったらしく、バスローブをまとったローズがそこにはいた。 「……どうして……?」 夢でも見ているのだろうか。 「仕事が終わったから会いに来たんだよ」 ローズがベッドの上に腰掛ける。 かすかに薔薇の香りがあたりに漂った。 「ヒグラシに会いたかったから、君のアパートまで行ったのにいないんだもの、がっかりしたよ」 目の前のおそらくローズと思われる人物は言葉を続ける。 「で、ちょっと待っていたらグリーン氏が酔いつぶれた君を抱えてきたんだ。 グリーン氏にお礼をしておきなよ?君を送ってきてくれたんだから」 ヒグラシはローズと思われる人物をじっと見つめている。 ……これは夢?それとも現実? 会いたいと思ってたらそこにいたなんて、こんな都合のいい現実なんてあるのだろうか。 そんなのは恋愛小説の中にしか存在しないと思っていた。 でも、今目の前にいるのは……。 「君のポケットをあさるわけにもいかないしとりあえずボクの宿泊してるホテルにつれてこさせて もらったわけなんだけど……ってヒグラシ、何してるの?」 ヒグラシは自分のほっぺたを強くつねってみた。 痛い。 「……夢かと思って……」 「ふふっ、夢じゃないよ、ほら」 ローズが軽く笑って、ヒグラシの赤くなった頬に触れる。 ……温かい。 どうやら、夢ではないらしい。 「勝手につれてきちゃって、ごめんね」 「あ、い、いえ、明日特に予定もないですし……運んでもらってしまってすいません」 「気にしなくていいんだよ」 ローズがヒグラシの体を引き寄せ軽くキスをする。 「……ヒグラシに、会いたかったから」 会いたかった、とローズは告げヒグラシの体を抱きしめる。 「……やっぱりヒグラシは暖かいね……変わってない」 ローズがヒグラシから体を離す。 じわりと、ヒグラシの目に涙がたまる。 「……ヒグラシ?」 「……ぼ、僕も会いたかったです……」 ローズさんも同じことを考えてたんだ、とヒグラシは思った。 そのことを考えると胸がいっぱいになってしまって、ヒグラシの目からは収まりきらなかった気持 ちがあふれ出してしまう。 ぽろぽろとヒグラシの目から涙がこぼれた。 「ローズさんに……会いたかったです……」 ヒグラシはぎゅっと、ローズの手を握る。 グリーンの言葉が思い浮かぶ。 『気持ちを伝えてごらん』 「……ローズさんと会えなくて、寂しかったです……」 僕は、ローズさんが好きです。 独り占めしたいぐらい、好きです。 ……大好きです。 言葉にならない思いが頬を伝って流れ落ちる。 「……ヒグラシ……」 握られた手からヒグラシのぬくもりがローズに伝わる。 ふいに、強い力でヒグラシの体が引き寄せられる。 ヒグラシとローズの唇が再び合わさる。 けれども、今度は軽く触れるだけのキスではなくて深い深いキス。 ローズの舌がヒグラシの舌を絡め取る。 息ができないほどの激しいキス。 思えば、こんな激しいキスは今までにしたことがなかった。 ローズが唇を離したときはすでにヒグラシの息は上がっていた。 顔がほんのりピンク色にそまっている。 そのままローズはヒグラシをベッドに押し倒した。 「……本当はもっと後で、と思っていたんだけどね」 ローズがヒグラシに覆いかぶさるような体制のままつぶやく。 「そんなにかわいい顔見せられちゃ、ボクの我慢もそろそろ限界だよ……」 これから何が起こるのかわからないほど二人とも子供ではなかった。 「ねぇヒグラシ……いい?」 ローズがヒグラシの目をまっすぐに見つめる。 ヒグラシはローズの目を見つめ返して、うなづいた。 |
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