シルヴィーとサイバーは人気のないロビーへと移動することにした。 自動販売機で缶ジュースを買って近くのソファーに二人は座った。 「俺の好きな人はね、兄貴」 サイバーがポツリとつぶやいた。 「でも恋人いるんだな、男の」 ああ、そういうことかシルヴィーは思った。 身近な人を好きになって、だけどその人には別に好きな人がいて。 「俺の兄貴はかっこよくて、俺だけの兄貴だった」 サイバーがポツリポツリと口を開いていく。 「兄貴は俺の憧れで、俺は物心ついたときから兄貴が好きだった」 シルヴィーはそれを黙って聞いていた。 「兄貴も俺を好きだと言ってくれたんだけど、それは兄弟に対する好きで恋人に対する好きじゃな かったわけだ。んで、ある日兄貴が上機嫌で帰ってきたんだ。俺は「何があったん?」って聞いた ら兄貴は「好きな人ができた」って言ってさ」 サイバーが思い出すように言葉をつむいでゆく。 「俺は兄貴に好きだって言ったんだけど本気に取ってもらえなくて、兄貴はその好きな人……kk さんっていうんだけど、kkさんに猛アタックをして見事ゲットしましたとさ、めでたしめでたし」 「……何でボクにそんな話をするんだ?」 「……さぁ、なんでだろうな、俺と似てるところがあったからかな」 「お前と似てる……?冗談じゃない」 お前は思いを伝えてるじゃないか、シルヴィーは言葉を続けた。 「あれ?もしかして告白してないのか?」 「……できるわけないだろう」 あんな状態を見せ付けられて。 「ふ〜ん……何考えてるかわかんねーけど言わないより、言うほうがすっきりすると思うけどな… まぁいいけど」 サイバーが飲み終わった缶ジュースの缶をゴミ箱に投げる。 缶は吸い込まれるようにゴミ箱の中に入っていった。 「よっしゃあ!俺ってやっぱり天才?」 サイバーが重くなってしまった空気を払拭するように笑う。 「……バカ」 「ひでぇ!」 「……まだ兄貴のことが好きなのか?」 また周りの空気が静まり返る。 「……好きだよ。でも、兄貴とkkさんの仲を祝福できるようにはなった」 サイバーがまたバカみたいな顔で笑う。 「だって、俺が兄貴のこと一番知ってるんだぜ?俺が祝福してやらなくてどうするよ!」 「……お前、強いな」 「そりゃどーも」 サイバーが立ち上がる。 「俺もーそろそろ行くわ、兄貴も心配するだろうし」 「そうか」 「……本当は誰かに話したかったのかもな、俺」 シルヴィーに背中を向けたままサイバーはつぶやいた。 「片思いと実らない恋、俺、共感して欲しかったのかも」 「……」 「な〜んてな!嘘嘘、俺にそんなシリアスなの似合うわけないっつーの!」 サイバーは会場のほうへと駆け出した。 「あ!」 急ブレーキをかけてくるりと振り返る。 「俺、シルヴィーの曲陰気っていったけど嫌いじゃないからなー!」 それだけ言って風のようにサイバーは去っていってしまった。 「……何だったんだいったい……嵐のようなやつだったな」 シルヴィーはソファーから立ち上がると空き缶を捨てて、自分の部屋へと歩き始めた。 「おかえり、シルヴィー」 「ボゥイ、帰ってたのか」 ホテルの一室、人数の関係からボゥイとシルヴィーは一緒の部屋に宿泊していた。 「遅かったね」 「まぁちょっと話し込んでてね……ヒグラシさんはいいのか?」 「んー、明日に備えて早めに寝ちゃうってさ、残念だけどね」 二人は今日会った出来事について一通り語り合った。 「そうしたらヒグラシさんがさー」 「へぇ……」 とても嬉しそうにボゥイはヒグラシについて語っている。 その顔を見てシルヴィーは少し考えて、結論を出した。 「なぁ、ボゥイ」 「ん、何?」 「……ボクがお前のこと好きだって言ったら、どうする?」 「えぇ?!」 ボゥイは困ったような顔をして、どうしたらいいのか考えている。 その顔には『親友を失いたくないけど気持ちを受け入れることはできない』といったボゥイの感情 がそのまま面にでているかのようだった。 シルヴィーはその顔を見て今度はくすりと笑った。 「……冗談だよ。まったくこれだからお前をからかうのはやめられないんだよな」 「うわ〜いきなりシルヴィーが変なこと言い出すから僕、びっくりしちゃったよ〜」 「ははっ、騙されるお前が悪いんだよ。明日も早いし今日はもう寝るとするか?」 「うん、そうだね〜」 二人はそれぞれのベッドにもぐりこみ、ベッドサイドの電気を消した。 「おやすみ、シルヴィー」 「ああ、おやすみ」 「……シルヴィー」 「何だ?早く寝ないと明日起きれないぞ」 「…………ごめんね」 「…………別に」 「今度こそ、おやすみ」 しばらくたつとボゥイの寝息が聞こえてくる。 シルヴィーはその横で布団にくるまり声を殺して、泣いた。 |
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