恋の角砂糖



「あ〜あ、ショルキー行っちゃった……」
もっと話したいこととか色々あったのになー。
ショルキーがステージの準備に向かって、一人取り残された俺は紙コップを手にふてくされていた。
「久々に会った恋人にもっと言うことないのかよー……」
そう。
俺とショルキーはいわゆる恋人同士という奴で。
……もちろん周りには秘密なんだけど。
ショルキーの仕事の都合でなかなか会えないから、今日はいろんな話をしようと思ってたんだけどやっぱ
りショルキーは忙しくて……はぁ。
俺はひとつため息をつきながら、紙コップに口をつける。
あー、あまーい。
「あ、サイバー君だ」
ふいに話しかけられた声に気がついて、後ろを向くとそこにはヒグラシさんが立っていた。
ヒグラシさんは俺に手を振りながら近づいてきて、俺の座っている椅子の隣の椅子に腰を下ろした。
「ヒグラシさん、久しぶりー!」
「お久しぶり、サイバー君さっきのステージすごかったね」
「ホント?ヒグラシさんにそう言われると嬉しいな〜」
ひとしきり、ヒグラシさんと近況について話しているとふっ、と会場の明かりが消える。
あ!
「最前列行かなきゃ、ヒグラシさんこれあげる!」
俺は、まだ中身が半分ほど残っている紙コップをヒグラシさんの手に押し付ける。
「ちょ、ちょっとサイバー君?!」
「ごめん、ヒグラシさんまたあとで!」
俺はそういうとステージの最前列に向かって走り出した。


ステージの最前列にたどり着くと同時に、ステージの上に続々と人が現れる。
キング、マリィ、バンブー、ジュディ、そして……ショルキー。
久々に見るステージ上のショルキーはりりしくて、俺の心臓が一気に跳ね上がる。
一瞬、会場が静まり返り、すぐにショルキーの指がキーボードの上をはねる。
クールで落ち着いた、ショルキーみたいなキーボードの音が会場に広まる。
やがて、会場の明かりが元に戻りドッと演奏が開始され、マリィ達がステージ上で踊り始める。
それでも俺の目はショルキーに釘付けだった。
ショルキーの指が白と黒の鍵盤の上を跳ねるたびに、背筋に何かゾクゾクとしたものが這い上がる。
ふと、サングラス越しのショルキーと目があった様な気がした。
ショルキーが白い歯を見せて微笑む。
そんなショルキーを見て、俺は体に電撃が走るのを感じた。


気がつくと演奏は終わっていて、ステージでは次のプログラムの準備が始められていた。
俺の足は、勝手に楽屋に向かって走り出していた。


「ショルキー!」
俺は楽屋の扉を勢い良く開けて、ショルキーに飛びつく。
「ショルキー、ステージすっごい良かった!」
「そう?それは良かったな」
「うん、ショルキーすげーかっこよかった!」
俺は興奮した口調で早口でまくし立てる。
おかしいよ俺、すっごい興奮してるんだ。
ショルキーがかっこよくて、すげーからすっごいドキドキしてるんだ。
ショルキーはそんな俺を見ながら、複雑な表情を浮かべた。
あれ?俺なんか変なこと言ったかな……。
それとも俺の顔になんかついてる?
「……そういうことか……ボゥイのやつめ……」
ショルキーがぶつぶつと何かをつぶやきながら、俺の顔をなでる。
なでられて所から熱が沸き起こるのを感じる。
「MZD!もう今日俺のステージはないよな?」
「あぁん?ああ、そうだな今日はもうねーな」
「それじゃあ俺は今日はもう上がらせてもらうよ、行こうサイバー」
ショルキーが俺の手を取って歩き出す。
何?何が起こってんの?
ほどほどにしとけよ〜、というMZDの言葉が扉が閉まりかけた楽屋の中から聞こえた。


ついたところはショルキーの部屋だった。
「入って」
言葉のままに、ショルキーの部屋に入った俺は、扉の閉まった瞬間に何かに唇をふさがれた。
それはショルキーの唇で、ショルキーの舌が俺の口の中を這い回るたびに自分の体から力が抜けていくの
を感じた。
体が熱を持つ。体がショルキーを求めてる。
もうどれぐらいの時間がたったのかわからなくなったころ、ショルキーが唇を離し俺のサングラスを奪う。
「は、ぁ……ショルキー……?」
「サイバー……気づいてないの……?」
気づく?何に?
俺の頭に無数の疑問符が浮かぶも、霞のかかった頭じゃうまく考えられなかった。
「サイバー、すごいエッチな顔してる……」
俺が?!
「駄目だよ無防備にそんな顔見せちゃ……ブレーキが利かなくなる」
ショルキーが部屋の中に入り、きつくしまったネクタイを解く。
俺はそのしぐさからでさえも目を離せなくなっていた。
「どうしたの?早く入っておいで……」
ショルキーが扉の前でへたり込んだままの俺に手招きする。
これから何が起こるのか、わからないほど俺も子供じゃない。
それに、この体はそれを望んでいるのが良くわかる。
それでも俺はショルキーの元に向かうことはかなわなかった。
「……立てない……」
俺がそういうと、Yシャツの第3ボタンまで開けたショルキーはふわりと俺に向かって笑った。
俺は、そんなショルキーの顔を見て、さらに心臓を高く跳ね上がらせた。


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