「マモルー、ギャンブラーZ始まるぞー」 「えっ?!もうそんな時間ですか?!」 階下から聞こえたお兄ちゃんの声に驚いて、階段を駆け下りると丁度お兄ちゃんがリモコンに手をかけ、 テレビに電源が入ったところでした。 画面に映るのは……。 「お、この人確かマモルの友達だろ?ジャスティスさんだっけ?」 「あ……うん、そうですよ!」 「すげぇなぁ、全国ツアーだってよ」 そう、ジャスティスさんは先月からライブのために日本中を回っていていつものマンションにはいないの です。 まだたった一ヶ月なのにずいぶん長くあっていないような気がするのは気のせいでしょうか。 「あ、そうだそうだギャンブラーZだったな」 お兄ちゃんがテレビのリモコンを操ると、ジャスティスさんの姿は正義のヒーローへと変わりました。 「ただいまー」 あ、お父さんだ! 扉が開く音と同時にお父さんの声がテレビのあるリビングに届いたのでした。 「マモルー、お客さんが来てるぞー」 え?ボクに、お客さんですか? −大人と子供の境界線− 「よう、マモルちゃん元気にしてたか?」 「最上さん!お久しぶりです!」 お父さんに呼ばれてボクが玄関に向かうと、そこにいたのは洋装に身を包んだ最上サスガさんでした。 ボクがお父さんに「パーティの時に知り合ったお友達なんです!」と説明すると、最上サスガさんはお父さん に向かって軽く会釈をしました。 「今日はちょっとある奴から預かり物があってな……」 最上さんは懐から一枚の封筒を取り出してボクに手渡してくれました。 差出人も、宛名も無い真っ白な封筒。 ボクがその封筒を開けると、中から折りたたまれた手紙と一枚のチケットが出てきました。 チケットには来週の日付がしるされています。 「も、最上さん、これってまさか……!」 「ピンポーン、ジャスティスの全国ツアー最終日のチケット」 「で、でもなんで最上さんが?」 「あー、奴が忙しいらしくてね俺が代わりに届けに来たってわけだ、ナイスも来るぞ」 すると、最上さんはお父さんの方を向きました。 「てなわけで、来週ちょっとマモルちゃんをお借りしてもいいですかね?ちゃんと責任持って送り迎えし ますんで」 「うーん……」 お父さんが最上さんを見ながら悩んでいるかのように、顎に手をあて首をかしげています。 「お、お父さん、駄目ですか……?」 ボクはお父さんの顔色を伺うように、お父さんに尋ねました。 久々にジャスティスさんに会えるのです、ジャスティスさんの歌う姿をまた見たいのです。 「マモルは行きたいのかい?」 「はい!」 「じゃあ……よろしくお願いします」 お父さんが最上さんに軽く頭を下げました。 「お父さん、ありがとうございます!」 「よっしゃ、それじゃ来週ナイスと迎えに来るな」 「はい、ありがとうございました!」 最上さんはボクに向かって笑うと、大きく手を振って去って行ってしまいました。 ボクは嬉しさのあまり家の中に入ると、階段を駆け上がり自分のベッドである二段ベッドの上の段に飛び込 みました。 ジャスティスさんに会える!ジャスティスさんに会える! ボクは最上さんから頂いた封筒を胸に押し当て、はしゃぐ心を落ち着かせました。 あ、そういえば……。 ボクはその封筒を開けると、中に入っていた二つ折りの手紙を取り出しました。 『マモル君、元気ですか?俺は元気です。 この封筒がちゃんと届いてるってことは俺のライブ、見に来てくれるってことだよね。 マモル君に会えるの、楽しみにしてます』 それはとても短い文章だったけれども、少し癖のある字は封筒の差出人がジャスティスさんであることを 如実に表していました。 『マモル君に会えるの、楽しみにしてます』 ……ボクも、楽しみです。 手紙を封筒の中に戻し、チケットを眺めました。 「……ジャスティスさんはすごいです……」 パーティが終わったあと、ジャスティスさんの人気は若い方々を中心に増加していきました。 テレビ出演、いくつかのライブなどをこなしジャスティスさんはどんどん有名になっていきました。 そして、今回はじめての全国ライブツアー……もうすでに終わってしまった地域はどこも大盛況だったら しいです……。 ちくり。 あれ、なんでしょう……? ボクはとげでも刺さったのかと思って胸の辺りを見てみるも、そこにはなんにもありませんでした。 でも、確かに……。 「マモルー、ご飯になるわよー!」 「あっ、今行きます!」 ボクはチケットを封筒に戻し、封筒を枕の下に大切にしまいました。 |
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