「ヒグラシさんでしたー!どうですか、感想は?」 「いやー、感激ですよ、まさかこのステージにたてるだなんて……」 「その感動を誰に伝えたいですか?」 「そうですね……」 「僕に音楽の楽しさを教えてくれた、高校時代の先輩に伝えたいです」 −あの日− 拍手に包まれてステージから降りる。 僕がポップンパーティのステージに立てる日が来るなんて、まるで夢みたいだ。 そんな思いに包まれていると、一人の少年がこっちに向かってくるのが見えた。 目が覚めるような水色の髪の毛。 その子は僕の前に立つと、僕の顔をまじまじと見つめてきた。 なんだろう、顔に何かついてるのかな? 「やっぱりヒグラシさんだ!」 男の子の顔がぱっと明るくなる。 僕のことを知ってるのかな? えーとえーと誰だっけ、必死で思い出してみるもその姿に思い当たる節は無い。 「あ、もしかして俺のこと忘れてる?ひでぇなぁ」 「す、すいません思い出せなくて……」 目の前の男の子が明らかにがっかりした顔を見せる。 「ちぇー、俺だよ!サイバーだよ!」 サイバー? 名前を頼りに記憶の奥を探ると一人の少年の姿が思い出される。 「もしかしてサイバー君?!」 「そうだよ、やっと思い出してくれた?!」 またぱっと明るい顔に戻った、表情の変化の激しい子だなぁ。 「俺、ステージで見たときからあれ?って思ってたのに、忘れてるなんてひでーよー」 「あはは……ごめんごめん、だってすっかり大きくなっちゃってたからさ」 それにあのころは髪の毛も普通の色で、そんな派手な服着てるところ見たこと無かったし……。 「サイバー君も招待されたの?」 「いやー、今回は兄貴の付き添い……」 「サイバー!」 サイバー君の言葉をさえぎって、サイバー君を呼ぶ声が響く。 その声がしたほうに目を向けてみるとそこには……。 「サイバー、ちょろちょろするなって行っただろう!戻ってきたらいなくて驚いたぞ!」 「だってさー、知り合い見つけたら嬉しくなるじゃん?」 「知り合いって……」 振り向いたその人と目が合う。 「マコト先輩……」 「ヒグラシ、か……?」 髪の毛は多少短くなってたけど、間違いない。 「な、何でヒグラシがここに?!」 マコト先輩が驚いたように僕を見る。 「何でって……招待されて……」 「兄貴トイレいってて見てないんだもんなー」 目を離すことができない。 深い茶色の瞳、まっすぐ僕を見るその瞳は高校の時から変わらない。 「お久しぶりです、マコト先輩」 「あ、ああ……高校卒業以来だから3年、いや4年か」 「もうそんなになりますか……」 4年……もうそんなに経ってたんだ。 「ヒグラシさん、全然うち来てくれないんだもんなー」 サイバー君の言葉に意識が引き戻される。 僕は目をサイバー君の方に向けた。 「ごめんね、受験勉強で忙しくなっちゃって……今はもうあの近くには住んでないんだ」 「1人暮らしだっけ、いーなー」 ちらりとマコト先輩の方を見る。 マコト先輩はまだ僕のほうを見ていた。 「あっ!ボゥイ発見!」 サイバー君がいきおいよく走り出す。 「ヒグラシさんまたねー!」 サイバー君は大きく手を振ってあっという間に走り去っていってしまった。 僕は、もう見えなくなってしまったサイバー君に軽く手を振った。 落ち着きがないのは変わってないなぁ。 「ヒグラシ……本当に久しぶりだな」 僕はマコト先輩の方に意識を戻した。 「まだ音楽やってるのか?」 「専門にではないですけど……マコト先輩はご実家の方を手伝っているんですか?」 「ああ、でもやっぱりギターは手放せないな」 話しながらマコト先輩を見る。 マコト先輩は僕の高校時代の先輩だった人で、僕が音楽を始めるきっかけになった人でもある。 あの時、軽音部に誘われなかったら今の僕はないだろう。 その同学年の女の子にもてていたかっこいい顔も、すらっとした体つきもあの当時のままだ。 僕はマコト先輩から大きな影響を受けた。 音楽の楽しさ、僕とは違う物の見方、そして……。 ふと、僕の頭に『あの日』のことが思い浮かぶ。 僕は軽く頭を振って『あの日』のことを頭から消した。 「ヒグラシ?」 「あ、すいません……」 マコト先輩の言葉で、僕は自分の世界に行ってしまっていたことに気がついた。 「まぁつもる話もあるし、俺もいろいろ聞きたいことあるからどっか落ち着けるところに行かないか?」 「そうですね、ここじゃ周りの音が大きくて話すのも結構大変ですし」 僕とマコト先輩は連れ立って会場を後にした。 |
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