『今日はクリスマス!見てくださいこの行列を!』 「……そうか、今日はクリスマスだったか」 眠気覚ましにテレビをつけると、若いレポーターが弾んだ声で告げる。 今日は12月25日、俗に言うクリスマスだ。 だが、いつものライブがさらに盛り上がるだけで俺にはそんなことは関係ない。 時刻はまだ昼過ぎだし夜のライブに向けてもう一眠りするか……。 と、その時呼び鈴が軽快なチャイムで来客を告げた。 「誰だこんな時間に……増田の野郎か?」 俺は、だるいからだを引きずり玄関へと向かった。 「メリークリスマス、城西さん!」 「うおぁっ?!」 扉を開けた俺を迎えたのは破裂音と火薬の匂い、きらびやかなテープ、そしてよく見覚えのある顔…… アルフォンス・ミシェルの顔だった。 「ミシェル……お前何しに来た」 「嫌ですねぇ、今日はクリスマスですよ?城西さんに会いに来たに決まっているじゃありませんか」 目の前にいるメガネの男が優雅に笑う。 「仕事は」 「今年のクリスマスは日曜日なんですよ、これって運命だと思いません?」 「思わねぇよ」 たんなる偶然だろうがと心の中で思い、小さくため息をひとつつく。 「……俺は夜からライブなんだ、体力を使いたくない」 頭をかきながらぶっきらぼうにミシェルに告げる。 今日のライブは一際盛り上がることだろう、体力はいくらあっても足りやしねぇ。 「ちょ、ちょっと待ってください!」 部屋に戻ろうと振り向いた俺を慌てたように呼び止める。 「今日は多くの恋人同士が一緒にすごす聖なる夜ですよ?!」 「だからどうした」 「そんな日に、この僕が愛する城西さんと過ごせないだなんて……!」 …………いろいろと突っ込みたいところが盛りだくさんだな。 「城西さんは僕を愛していないとでもおっしゃるのですか?!」 「あのな……」 何でそういうことになるんだか。 俺はあきれて肩を軽くすくめた。 「そ、そんな……僕はこんなに城西さんを愛していると言うのに……」 ミシェルが泣き崩れるように、その場に座り込む。 相変わらずリアクションのでかい奴だ。 「城西さんはひどい人だ……僕の心をこんなにもかき乱して……」 もしもーし。 「はっ、もしや誰かが僕たちの仲を壊そうと陰謀を!?」 ……はぁ。 目の前で妄想を繰り広げるミシェルを見て、俺は大きくため息をつく。 そうだよ、こいつはそういう奴だったよ。 自分だけで悪い方向に持ってって、俺の言ったことなんかわすれちまう。 「しまった……城西さんに魔の手がかかっていたないんて、このアルフォンス・ミシェル一生の不覚…… しかし、この程度では僕の愛の炎は消えることなどありませんよ!城西さん、僕は……」 「はい、ストップ」 これ以上やられると近所迷惑になるからな。 俺は、きょとんとした顔で俺を見上げるミシェルを尻目に奴の脇においてある白いビニール袋を手に取る。 「こりゃあケーキか、高そうな箱だな」 俺はそのビニール袋を手に持つと玄関に戻り靴を脱いだ。 「あ、あの城西さん……?」 ミシェルの野郎が、なさけない声で俺を呼ぶ。 俺は肩越しにに奴の方を見た。 「……なんだ、入らねぇのか?」 別に俺は帰れとも、嫌いだとも言ってない。 ただ、体力をつかいたくないと言っただけだ。 それをいまだにへたり込んだままのミシェルに言うと、ミシェルの顔がみるみるうちに明るくなっていく のが手に取るように見て取れた。 「城西さーん!」 「くっつくな、うっとおしい」 すっかり気分を持ち直したらしきミシェルが大喜びで俺に飛びついてくる。 俺はそれを軽く避けて、部屋の中へと入った。 「ああ、そうだクラッカーを人に向けるのはやめろ、書いてあるだろうが」 「はい、城西さん!」 「……あと、その妄想壁も治せ」 「はい、城西さん!」 ああもう、いまの奴には何を言っても無駄か。 部屋の隅から座布団を引っ張り出すと、横で奴がうきうきとした様子でシャンパンを取り出すのが見えた。 ……クリスマスなんて、俺には関係ないものだと思っていたんだけどな。 今日は、騒がしい一日になりそうだ。 俺は顔に笑みを浮かべているのを悟られないように、小さくまたため息をついた。 おまけ 「さぁ、じゃあケーキ食べましょうか!シャンパンもありますよ!」 「起き抜けからケーキは勘弁しろ、それに俺は夜からライブだと言っただろうが、アルコールもパスだ」 「え、じゃあ年賀状でも書きますか?」 「……お前、クリスマスをなんだと思っているんだ?というか本当にフランス人なのか?」 |
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