乳白色の液体



ザァーッ……


バタン、と勢いよく部屋の扉を閉める。
「ああ、もう靴も服もぐしょぐしょだ……」
「夕立だなんて災難ですね……」
玄関で力なくつぶやく俺とマモル君。
その姿は頭からつま先までびしょぬれだった。
今日は天気が良かったから、久々に外に出かけたところにこのバケツをひっくり返したような雨。
扉を閉めても聞こえてくるその雨音に俺は一つため息を付いた。
「とりあえず、タオル取ってくるから上着とか靴とか脱いで待ってて」
水をすって重くなった靴から足を抜き、脱衣所へと向かい、洗い立てのタオルを2枚手にとって玄関
に引き返す。
さて、これからどうしようか……。
このままじゃ体が冷え切ってしまうから、シャワーでも浴びるかな?
マモル君にタオルを渡し、髪の毛から落ちる雫をぬぐう。
ああそうだ、どうせなら。
「マモル君、お風呂入ろうか」
「お風呂ですか?」
「うん、そのままじゃ体冷えちゃうし」
最近シャワーばっかりだったし、たまには浴槽にゆったり体をゆだねるのもいいかな。
「じゃあ、ボクジャスティスさんのお背中をお流ししますね!」
「ありがとう、じゃあ背中の流し合いっこでもしようか」
タオルの上からマモル君の頭をなでる。
「さて、とりあえずこの濡れた服をどうにかしないとね……」
雫が垂れない程度にタオルで拭いた後、俺とマモル君は風呂場へと向かった。




「こんなもんかな……」
浴槽の蛇口から勢いよく流れ出すお湯。
そのぬくもりが冷えた指先に、柔らかくしみる。
浴槽にお湯が張られていくのを見つつ、脱衣所へと続く扉を開く。
「ええと、足りないタオルは今マモル君に取りに行ってもらってるからいいとして……あれ、この箱
は何だっけ?」
脱衣所を見回していると、棚に見覚えのない箱がのっている。
そっとその箱を取り、ふたを開けるといくつかの入浴剤が姿を現した。
あ、そうかこの前ナイスさんにもらったんだっけ、最近使ってなかったからなぁ……。
「どれか入れてみようかな……」
箱の中身を物色し、一つの袋を手に取る。
風呂場に行き、お湯の溜まった浴槽にその中身を空けると、お湯がうっすらと色づいていった。
「ジャスティスさーん、これでいいですか?」
声に振り向くと、タオルを抱えたマモル君がいた。
「ありがとう、こっちもいい感じだよ、そろそろ入れるかな?」
風呂場の扉を閉めて、マモル君から受け取ったタオルを棚の上に乗せる。
「ああもう、雨で張り付いちゃって脱ぎにくいな……」
「そうですね……っくしゅん!」
雨で張り付いた服を脱いで、洗濯機の中に放り込む。
「体冷えちゃったね、早く入ろうか」
マモル君の冷たくなってしまった手を取ると、暖かい蒸気で包まれた風呂場への扉を開いた。



「わぁ、お湯が真っ白です!」
マモル君が浴槽に張られたお湯を覗き込み、不思議そうに眺める。
透明なはずのお湯は、入浴剤によって乳白色の液体へとかえられていた。
「ミルク風呂の素だって、ナイスさんにもらったんだけどさ」
「えっ、牛乳なんですか?」
「うーん、牛乳そのものじゃないけど成分は一緒なんじゃないかな、お肌がすべすべになるらしいよ?」
目を輝かせて浴槽を覗き込むマモル君を見ながら、シャワーを手に取る。
シャワーのコックをひねると、暖かいお湯が噴出した。
「ほら、まずは体洗ってからね」
マモル君の体にお湯を浴びせる。
「暖かいですね……」
「すっかり冷えちゃったから、ちゃんと暖まらないとね」
さらに湧き上がる蒸気に包まれながら、お湯を浴びていく。
ふと、気づくとお腹の辺りに視線を感じる……。
視線を落とすとマモル君がじっと俺の腹部を見つめていた。
「ジャスティスさんって……すごい筋肉ですよね……」
「そう?」
確かに職業柄、鍛えてはいる方だと思うけど……。
マモル君の手がそっと俺の腹筋に触れる。
そっとなでられるような感覚がなんだかくすぐったい。
やがて、マモル君が手を離し、自分のお腹に手をあてて一つため息をついたのが見えた。
……うん、俺はぽよんとしたお腹もいいと思うんだけどな。


背中の流し合いっこして、大量に泡立てたシャンプーで髪の毛も洗って、浴槽に浸る。
さすがに二人で入るのにはちょっと狭くて、俺の膝の上にマモル君を乗せる形になる。
「本当に真っ白なんですね……」
マモル君の手が乳白色のお湯を掬い取る。
入浴剤入りのお湯は本当に真っ白で、お湯の下にあるはずの体を視認する事はできない。
俺は肩までお湯につかると、ほっと息をついた。
マモル君が俺の胸板に寄りかかるように体を横たえ、お湯に沈む。
「はぁ、気持ちいいな……」
「そうですね、体がポカポカしてきました」
天井から雫が落ちる音を聞きながら、お湯に体をたゆたわせる。
暖かいお風呂と、マモル君。
あぁ、幸せだなぁ。




……が、しかし次の瞬間、俺は気づいてはいけない事に気づいてしまった。





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