「あ、あのジャスティスさん、今度ボクに算数教えてくれませんか?」 その日は俺がオフの日で、マモルくんと俺は外をふらふらと歩いていた。 ウインドウショッピングをして、店でお茶をして、とにかく二人で街を探索した。 きっと俺とマモルくんが恋人だなんて街を歩く人はちっとも思っていないだろう。 せいぜい、仲の良い兄弟ぐらいだろうなぁ。 「今度は遊園地とか行きたいね」なんて二人で話しながらマモルくんを駅まで送っていった時に、 マモルくんが俺に言った。 「算数?」 「あ、えっと、宿題でちょっとわからない所があって……」 珍しい、マモルくんでもそんなことがあるんだ。 「うん、いいよ。宿題かぁ、いつ提出なの?」 次の休みはいつだったかな……。 「えっと……ら、来週です」 「来週か、じゃあ早いほうがいいね明後日とかどう?」 「あ、はい!大丈夫です!」 「それじゃあ俺の家でやろうか。もう場所はわかるよね?」 「は、はい!」 「うん、それじゃあまた明後日ね、マモルくん」 「はい、ジャスティスさん!」 マモルくんが手を振って改札口の中へと消えてゆく。 俺はマモルくんが見えなくなるまでそれを見送る。 ……あ、階段で転びそうになってる。 しかし、勉強でわからない所があるなんて珍しいなぁ、マモルくん頭いいのに。 小学校5年生の算数ならわかると思うけど……ものすごく難しい奴だったらどうしよう?! 実はマモルくんの小学校はすごい進学校で難しい入試問題をもうやってるとか?! ……ま、考えてもしかたないか。 マモルくん用に牛乳でも買って帰ろうかな。 姿の見えなくなったマモルくんのことを思いつつ、俺は駅を後にした。 ピンポーン。 二日後、マンションにつけられたチャイムが軽快な音で来客を知らせた。 「おはようございます、ジャスティスさん!」 「おはよう、マモルくん」 ドアを開けるとそこには薄い水色のシャツに身を包んだマモルくんが立っていた。 今日もかわいいなぁ……そんなことを思いつつマモルくんを中に招き入れる。 「適当にその辺に座ってて、飲み物だけど牛乳でいい?」 「あ、ありがとうございます」 俺はキッチンに行き、自分用のコーヒーとマモルくん用のアイスミルクの用意をした。 そして、同時にポケットの中に忍ばせていたものに手を触れる。 これをいつ渡そうかな……。 飲み物を運んでいくとテーブルの上にマモルくんがノートを広げていた。 「それが宿題?」 「え、あ、はい!その、ここがちょっとわからなくて……」 マモルくんが指差した先には簡単な図形の問題が示されている。 よかった、これなら俺にもわかりそうだ。 俺はマモルくんの横に座って、改めてノートを見る。 「どれどれ……」 「ここなんですけど……」 ……ずいぶん簡単な問題だな? 俺が大人になったからだろうか、その問題は普通の、何の変哲もない算数の問題に見えた。 「そ、その、ここと、ここの面積をどうやって出すのかが……」 「それはね、こうやって分けて考えると……」 俺はノートにペンを走らせた。 「で、こうやるんだと思うんだ」 「あー……なるほど……」 マモルくんが相槌を打ちながら俺のほうをじっと見る。 「ん?俺の顔に何かついてる?」 「あ、い、いえ、ごめんなさい!」 ……別に謝らなくてもいいのに。 マモルくんの顔がちょっぴり赤い。 ……いいこと思いつ〜いた。 「この体勢だとちょっと見づらいかな?」 「え?いえ、そんなことないですよ?」 「う〜ん、そうだ」 俺は横にいたマモルくんを持ち上げる。 「ひゃあっ?!」 そのままマモルくんを俺の膝の上に乗せる。 ちょうど、背中から俺が覆いかぶさっているような形になる。 「ジャ、ジャスティスさん?!」 「うん、このほうが見やすい見やすい」 マモルくんの髪の毛からシャンプーのいい匂いがする。 「マモルくん暖かい……」 「ジャスティスさん?」 くっついてるとなんだか、幸せな気分になってくる。 おっと、いけないいけない。 「あ、ごめん、続きやろうか」 そういえば宿題の途中だったんだっけ。 「え、えと、とりあえずわからなかったのはここだけなんですけど……」 「そうなの?」 そういえば、ノートには色々な問題がびっしり書かれている。 あそこだけわからないっていうのも変な話だなぁ……まぁいいか。 「んじゃ、もうちょっとだけくっついててもいい?」 外じゃこんなにベタベタできないしね。 マモルくんが顔を赤くしながら「はい」と答える。 俺は机の上に置いてあった手をマモルくんを包み込むように絡めた。 |
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