10月31日、夕方。 「城西さん、トリック・オア・トリート!」 「……いい大人が何しに来た」 寝ぼけ頭のジョニー城西とマントにシルクハットのアルフォンス・ミシェル。 その様子はだれがどう見ようと異様な状況だったに違いない。 城西は部屋の中に戻ると片手にのど飴を持って帰ってきた。 「ほれ、お菓子やるからさっさと帰れ」 「こんなお菓子じゃ僕はひきませんよ」 城西は一つ溜息をついた。 「……しかたないだろ、これしかないんだから」 自慢のリーゼントをかきあげながら心底けだるそうな表情で城西は言った。 「それともあれか、わざわざ買いに行けってか?」 「やだなぁ、城西さん」 ミシェルの瞳があやしく光る。 いやな予感を感じつつも動けない城西。 その瞬間、ミシェルが動く。 瞬間、その一瞬だけだったがお互いの唇が触れあった。 城西が驚き後ずさる。 「こんなおいしそうなお菓子があるのに、帰るなんてとんでもない」 「てめぇ……」 ミシェルが勝ち誇ったように微笑む。 「とても甘かったですよ、城西さんの唇」 「なっ……!」 とたんに城西の顔がさっと赤く染まる。 ミシェルがマントで体を隠すように城西の体を柔らかく抱き、耳元でささやいた。 「……もっと、味わいたい……」 顔を赤くしながら飛び退く城西。 ミシェルに背を向け、部屋へと戻っていく。 「これは……あがってもよろしいと言うことでしょうか?」 「……勝手にしろっ!」 城西の背中を見つめるミシェル。 「……照れ屋さんな城西さんも素敵ですよ」 部屋の中から無言でのど飴が飛んできた。 ミシェルはそれを軽くよけると部屋の中へと入って行った。 「なぁ、もし俺がトリックを選んだらどうするつもりだったんだ?」 「それはもう全力をもっていたずらを」 「……どっちにしろ一緒じゃねぇか」 「結果的にそうなりますね」 「はぁ……聞いた俺が馬鹿だった」 「どっちにしても変わらないことがもうひとつありますよ」 「……」 「愛しています、城西さん」 「……そりゃどうも」 |
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