『ドライブいかない?』 カバンの中から流れる『quick master』 学校の帰り道、携帯に届いたそのメールは補習でへこんだ俺の心を浮き足立たせるのには十分な代物 だった。 たった一行、されど一行。 俺は浮き足立ちながらそのメールに返信を打った。 『行く行く!家帰ったらそっこーでショルキーの家行くから待ってて!』 「ショルキー!」 「やぁ、久しぶり」 家に帰って、カバンと制服を放り投げてショルキーの住むマンションに向かうと、すでにマンション の前でショルキーが待ってた。 俺を見つけると嬉しそうな顔で笑って、軽く手を振ってくれた。 「元気そうだね」 「おう!俺はいつでも元気満タンだぜ!」 会うのは実に数週間ぶり? 仕事が忙しそうだったからなんとなく会いに行きづらかったんだけど、やっぱ会えてすげー嬉しい。 でも、なんかショルキー、線が細くなった気がする。 仕事忙しかったのかな? それとも、俺の気のせい? 「……ショルキーやせた?」 「ああ、仕事忙しかったからちょっとやせたかもしれないな」 やっぱそっか、ショルキー仕事に集中しすぎると周りが見えなくなるからなー。 「じゃ、今は休み?」 「……うん、まぁね」 そっかー、ってあれ…………つまった? 肯定の返事の前に少しだけあいた空白に、何か違和感を感じる。 じーっとショルキーを頭からつま先まで眺めてみた。 「……そんなに見ないでくれよ」 頭……ちょっといつもよりぼさぼさしてる感じ。 肌……荒れてる気がする。 指先……ちょっとだけだけど、何か黒く汚れてる、インク? 目……サングラスで見えないな。 でもいつもみたいにげっそりしてるわけじゃないから、締め切り間近ってわけでもなさそーだなー。 一見、普通のショルキー。 でも……なんかわざとらしい? 何か空元気っつーか何ていうか。 一行だけのメールといい、何かがひっかかる。 「……もしかして、仕事終わった直後?」 一瞬だけ、ショルキーの動きが止まる。 頬を指でかき、髪をかき上げるショルキー。 「……そんなとこばっかり鋭いんだから」 「『そんなとこばっかり』ってなんだよ!」 やっぱりかよ!休めよ! 「大丈夫、ちゃんと2時間は寝てるから」 俺の心を読んだようにショルキーが答える。 それなら大丈夫……ってそんなわけあるかぁ! その2時間の前にどんだけ起きて仕事してたんだよ! 俺の考えてる事がわかっているのかいないのか、ショルキーはただ微笑んでいるだけだった。 「うーん、なるべく顔には出してないつもりだったんだけど……まったく、サイバーにはかなわないな」 「あたりまえじゃん!」 一番とは言えないけど、ショルキーのことすげぇわかってるつもりだぜ、俺。 だから休……。 「でもさ」 俺の思考をショルキーの言葉がさえぎった。 「サイバーと一緒にいることが一番の元気になるんだよ、っていったら信じてくれるかい?」 …………なんでそんなことをさらっと言えちゃうのかなぁ…………。 「……信じる」 「よかった、それじゃあどこに行こうか」 ほっとしたようにショルキーが笑う。 ショルキーってわかりにくいようでわかりやすいよな、と思った。 「んー、じゃあ腹減ったから何かうまいもん食べに行きたい」 「ふふっ、了解」 髪の毛を軽く乱すように頭をなでられる。 「あー、また子ども扱いして!どうせ『かわいい』とか思ってんだろ?!」 「あはは、ごめんごめん」 ショルキーが車のドアを開けながら声に出して笑う。 そして、一言。 「でもね、単純に嬉しいんだよ」 俺を導くように助手席のドアが開く。 運転席には、微笑みながら手招きをするショルキー。 ……ああ、ちくしょう。 ショルキーにはかなわねぇなぁ。 |
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