僕と君は恋人同士。 僕は君のことが好きで、君も僕のことが好きで。 これはゲーム。 先に言い出したほうの、負け。 −ゲームと勝負と試合− 「へへっ、僕の勝ち〜」 「……また負けた……」 僕の横には、僕の恋人シルヴィーがいる。 久しぶりにシルヴィーと過ごす休日。 最近お互いに曲作りとかで忙しかったから本当に久しぶり。 「ちくしょう、これなら勝てると思ったのに……」 テレビの画面にはシルヴィーの好きな対戦型のパズルゲームが映し出されている。 「あ〜喉渇いちゃったなぁ、お茶持ってくるよ。シルヴィーは砂糖一つでいいよね?」 「あ、ああ、すまない」 シルヴィーはまださっきの勝負に納得がいってないのか、画面を見ながらなにやらぶつぶつ呟いて いる。 僕はそんなシルヴィーを背にしてキッチンへと向かった。 薄く色の入ったガラスのコップを二つ用意する。 赤いのが僕ので、青いのがシルヴィーの。 冷凍庫から氷を取り出してコップに入れる。 (シルヴィーと会うの久々だなぁ……) カラン、と氷がコップに当たって涼しげな音を立てる。 今日はシルヴィー泊まっていってくれるかな? 明日も予定は無いって言ってたからお願いすれば泊まっていってくれるかも…… 氷を戻して今度は冷蔵庫からアイスティーを取り出してコップに注ぐ。 ……でも、僕からお願いするって何か悔しくない? そういえばいっつも僕から言ってばっかりでシルヴィーから言い出したことあんまり無いよね。 たまにはシルヴィーのほうから言ってくれないかなぁ。 シルヴィーのコップに角砂糖を一つ溶かしてできあがり。 僕は二つのコップを持ってシルヴィーが待つリビングに戻った。 リビングに戻るとシルヴィーがさっきのパズルゲームを一人でやっていた。 おそらく、一番難しいモードだろう。 「シルヴィー、ここに置いとくよ」 「ん……」 一言だけ返事を返すとシルヴィーはまた画面に意識を戻した。 また一人また一人コンピューターを倒していく。 シルヴィーのゲームスタイルはまるで最初から最後まで計算しつくされたようで。 まるでそれは数学の方程式を解くように鮮やかだった。 ……けれども、計算を崩されるのにひどく弱くて。 シルヴィー自身はそのことに気がついてないんだよなぁ。 ゲームに熱中するシルヴィーを見る。あー、かわいいなぁ……。 ゲームの戦況に応じて微妙に表情の変わるシルヴィーを僕はじーっと見ていた。 「……何見てるんだ?」 いつの間にかシルヴィーが僕のほうを見ている。 ゲームの画面にはエンディングが流れていて、そこではじめてシルヴィーに見とれていたと気づい た。 「……いや、シルヴィーかわいいなぁと思って」 「なっ……!」 シルヴィーの白い肌にほんのり朱が混じる。 「そ、そんなの男に言う言葉じゃないだろう……」 不意をつかれたのか慌てるようにシルヴィーが言う。 あ〜ぁ、そんなかわいい顔を見せられちゃ僕の負けに決まってるじゃないか。 「ねぇ、シルヴィー」 「なんだ」 シルヴィーがアイスティーに口をつける。 「好きだよ」 「ごふっ!げほっ、げほ……な、何いきなり言ってるんだ!」 顔に混じる朱の色が強くなる。 シルヴィーが言ってくれないの悔しいって言ったけど、あれ撤回。 だってシルヴィーの計算を崩せるのが僕だけって、何か優越感感じるじゃない? ゲームでも……恋愛でも。 「ねぇ、今日泊まってってくれるでしょ?」 「……べ、別にかまわない……」 ゲームのルールでは先に言い出した僕の負け。 でも勝負は計算を崩された君の負け。 だけども、試合は引き分けで。 君が好きになった僕の負けで、僕を好きになった君の負け。 |
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