暖かいお鍋でお腹がいっぱいになった少年のまぶたは、今にも閉じられそうになっていた。 コタツのぬくもりがさらにその睡魔に拍車をかける。 床に耳をつけるように横になると、部屋の主が歩き回っている音が聞こえる。 食後のお茶の準備でもしてるのだろうか。 横になった少年のまぶたは、その音に包まれるようにゆっくりと閉じていった。 そして、少年は一つの夢を見る。 少年の意識は場所を飛び越え、時間を飛び越え、さらには時空までを飛び越えた。 整ったアパートの一室が見える。 台所では眼鏡をかけた青年が洗い物をしている。 部屋の中では派手な頭をした男性が英字新聞を広げている。 部屋に飾られたバラの花束が、そこだけ別の世界のように見えて印象に残った。 周りに漂う空気はまるで熟練の夫婦のようで、少年はその二人を少しうらやましく思った。 どこかの広いリビングが見える。 青い髪をした少年が金髪の少年に何かを食べさせようとしている。 スプーンにのった物体は何だかわからなかったが、金髪の少年はひどく渋い顔をしている。 その顔とは対照的に、青い髪の少年はとても楽しそうな顔をしていた。 その二人の正反対な様子に、少年は少し笑った。 空き地に立つ屋台が見える。 青っぽい肌をした男性と小柄な中年男性が酒を酌み交わしている。 青っぽい肌をした男性が楽しそうに、小柄な中年男性に向かって何かを話している。 小柄な中年男性はときおりうなづきながら、穏やかな笑みで聞いていた。 ほんわかした穏やかな雰囲気を感じ、少年の心も少し暖かくなった。 夜の小道を歩く人影が見える。 金髪の青年と、帽子をかぶった青年が並んで歩いている。 二人の手は固く結ばれていた。 金髪の青年が顔を赤くして何かを言うも、帽子をかぶった青年は笑って答えるだけだった。 照れて顔を伏せる金髪の青年に、少年は何故か見てはいけないものを見てしまったように思えた。 何かを引きずって歩く人影が見える。 トンガリ頭の男が車輪のついたロケットを引き摺り、後ろから学ランを着た少年が押して歩いている。 トンガリ頭の男は酔っ払っているのだろうか、足元がおぼつかなく顔が赤い。 学ランの少年が怒ったように何かを言うも、トンガリ頭の男は笑って気にしていないようだ。 どこか憎めないその顔を見て、少年は大変だなぁと思った。 最初に見たのと同じようなアパートの一室が見える。 くせっ毛の青年がリーゼントの男を床に押し倒している。 リーゼントの男が軽い抵抗を見せるも、くせっ毛の男はびくともしない。 それどころか、楽しそうに笑っている。 くせっ毛の男の眼鏡が怪しく光るのを見て、少年は今度こそ本当に見てはいけないものを見てしまっ た気分になり、慌ててそこから逃げ出した。 人々の顔はもやがかかっていてよく見えなかったが、皆幸せそうだった。 見覚えのある部屋が見える。 コタツに体を横たえて眠る眼鏡の少年と、それを覗き込む黒髪の背の高い男が見える。 黒髪の男は困ったような顔をしながら、眼鏡の少年の頭をなでた。 眼鏡の少年が寝返りを打ち、やがて薄くまぶたが持ち上がる。 薄れ行く意識の中で、少年にその姿はやはり幸せそうに映った。 |
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