「これって……ジャスティスさんのお名前ですか?」 いつもの用にマモルがジャスティスのもとに遊びに来ていたある日、テーブルのすみに置いてあった 郵便物を手に取り、マモルが言う。 ダイレクトメールらしき手紙の表面には『保志正義』という見知らぬ名前が刻まれている。 「あれ、教えてなかったっけ?」 マモルの背後から手紙を覗き込みつつ、ジャスティスが答える。 「はい、知りませんでした……」 「うーん、まぁ最近本名で呼ばれることなんてないからね」 マモルが手紙の表面の文字を目に焼き付けるように見つめる。 「ほし……せいぎさんですか?」 マモルが顔を上げてジャスティスにたずねると、ジャスティスが軽く首を横に振った。 「違うよ、これで『ほしまさよし』って読むんだ」 そこまで言ったところで、ジャスティスが自分の唇に人差し指をあて『内緒』のポーズを取る。 「あ、でもこれ一応秘密ね?ばれると事務所の人に怒られちゃうだろうから」 「わかりました、ボクとジャスティスさんだけの秘密……ですね?」 「そうだね」 ジャスティスがマモルの頭をなでながらふわりと微笑む。 マモルは二人だけの秘密に心を躍らせながら、また手紙に目を戻した。 ジャスティスがそんなマモルを包み込むように体に腕を回す。 「ジャスティス★ってライブハウスで歌って頃に自分でつけたんだけど……単純だよね」 ジャスティスがははっと笑う。 「ぼ、ボクはとっても素敵なお名前だと思います!」 「そういわれると嬉しいな」 マモルが顔を上げると、覗き込むように見つめるジャスティスと目があう。 「本当のお名前で呼んでみてもいいですか?」 「うん?別にかまわないけど」 「えーと……保志、さん……?」 二人の間を軽い沈黙が通り過ぎる。 やがてどちらからともなく顔に笑みがこぼれる。 「苗字で呼ばれるなんて久しぶりだから、何だか不思議な気分だよ」 「何だか妙な気分になってしまいますね……うんと、じゃあ」 マモルの視線とジャスティスの視線が再びお互いの瞳を捕らえる。 「正義さん」 沈黙。 先ほどとは流れる空気の違う長い沈黙が二人の間を漂う。 やがて、マモルの頬に朱が混じったかと思うと、それにつられるようにジャスティスの顔も心なしか 赤くなっていった。 「な、何だか、恥ずかしいですね……」 再び、沈黙が二人の間を流れる。 その間、二人の視線がそらされることはなかった。 しばらくたってマモルがやっとのことのように口を開く。 「あの、やっぱりジャスティスさんとお呼びしてもよろしいでしょうか……」 真っ赤になってしまったマモルのしどろもどろな発言に、ジャスティスがくすりと笑みをこぼす。 「マモル君の好きなように呼んでくれていいよ」 ジャスティスがマモルの手から手紙を拾い上げ、さっと近くの棚の中にしまう。 「さて、おやつにでもしようか、今日はマモル君の好きなシュークリームだよ」 「あ、お手伝いします!」 固まっていたマモルを促すように、ジャスティスが立ち上がりキッチンへと向かう。 マモルもその後を急いで追う。 心に刻まれた一つの大切な名前。 いつか、ちゃんと呼べる日まで。 ……今日の出来事は二人だけの秘密。 |
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