「海に行かない?」 と、ジャスティスさんが言いました。 「海ですか?」 「うん、そう」 ジャスティスさんが嬉しそうににこにこ笑っています。 「実はね……」 −自転車に乗って− そう言って、ジャスティスさんはボクを地下の駐車場に案内してくれました。 そこにあったのは……一台のピカピカな自転車でした。 「この前のお給料で、せっかくだから買い換えたんだ」 ジャスティスさんがハンドルを触りながら嬉しそうな声で言いました。 その自転車は、いわゆるママチャリ……と言うんでしょうか、前に大きなかごと後ろに荷物を載せ る台のついた黒い普通の自転車でした。 「すごいですね!いいなぁ……」 「マモルくんを後ろに乗せられるようにちゃんと座れるやつを買ったんだよ」 ジャスティスさんがそう言ってにっこりボクに微笑みかけました。 ボクは、嬉しいなと思うと同時にジャスティスさんがあまりにも嬉しそうに笑うのでちょっぴり照れ てしまいました。 「せっかくのいい天気なんだからこれに乗ってどこかに出かけてもいいかな、なんてね。どう?」 確かに今日は梅雨明けの真っ青な空。 「はい!」 ボクは元気よく返事をしました。 ジャスティスさんはボクの返事を聞くともう一度にっこり微笑みました。 「よかった、それじゃあ行こうか」 「危ないからちゃんとつかまっててね」 ボクはジャスティスさんの言葉に返事をして腰の辺りにぎゅっとつかまりました。 自転車はびゅんびゅんとスピードを上げて行きました。 ボクはほっぺたにあたる風が気持ちいいなぁ、と思いました。 「マモルくん大丈夫?振動がつらかったりしない?」 「あ、大丈夫です、風が気持ちいいですね」 「そうだね、こうやってマモルくんと出かけられるなんて、これ買ってよかったなぁ」 ジャスティスさんが鼻歌交じりにつぶやきました。 「これからは帰りも一緒に帰れるね」 「え?」 「ん、いや、家まで送っていこうかなと思ってね」 登り坂に差し掛かって自転車が軽く揺れました。 ボクはバランスを崩さないようにジャスティスさんにしっかりとつかまりました。 「え、でも悪いですよ……」 「俺が送りたいの、それとも迷惑……かな?」 「迷惑だなんて、そんなことありません!!」 ボクはジャスティスさんの言葉を、精一杯否定しました。 帰りもジャスティスさんと一緒ということなのに、迷惑だなんてありえません! 「ふふ、よかった。これでもっと一緒にいられるね」 「……そうですね」 ジャスティスさんもボクと同じことを考えてたんだなぁ、と思うと自分の顔がほころぶのがわかりま した。 「坂を下るよ、危ないからつかまっててね」 「はい!」 ボクはさらにぎゅっとジャスティスさんにつかまりました。 ジャスティスさんと、一緒。 笑みがこぼれるボクの顔を涼しい風がなでていきました。 「マモルくん、海が見えたよ!」 1時間ほどたったころでしょうか、ジャスティスさんの嬉しそうな声が響きました。 そっとバランスを崩さないように首を伸ばすと目の前に海が広がっていました。 近くの駐輪場に自転車を止めて、ボクとジャスティスさんは海岸に向かいました。 やっぱりまだ、海のシーズンには早かったのかほとんど人はいません。 ボクとジャスティスさんは靴を脱いで波打ち際へと駆け寄りました。 海の水はまだ冷たかったけど、太陽に照らされた体にはとても気持ちよく感じました。 「うわっ、冷たいな!でも今日は暑いからこれぐらいでちょうどいいかもな……」 ジャスティスさんが手を海水につけながらつぶやきました。 「マモルくん、そ〜れ」 「ひゃあっ?!やめてくださいよ〜ジャスティスさん、えいっ!」 「うわっ、やったなぁ?!」 ジャスティスさんがボクに軽く水をかけてきました。 ボクはお返しとばかりにジャスティスさんに水をかけました。 楽しそうに笑うジャスティスさんを、ボクはとてもかっこいいなぁと思いました。 「さて、そろそろ帰ろうか……あまり遅くなってもいけないしね」 ボクとジャスティスさんはその後、海岸でアイスを食べたり貝を拾ったりして遊びました。 行きと同じようにジャスティスさんの自転車の後ろに座ってぎゅっとジャスティスさんにつかまり ました。 「それじゃ、家まで送ってくね。今日は楽しかった?」 「はい!また、来たいです」 「うん、そうだねまた来ようか。よし、出発!」 ジャスティスさんが自転車を漕ぎ出しました。 ボクはその後ろで思いました。 今年の誕生日プレゼントは自転車にしようと思ってたけど、違うものにしようと。 また、ジャスティスさんと海にこれるように。 ジャスティスさんの自転車の後ろに乗って海にこれるように。 ジャスティスさんに、もっと触れられるように。 |
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