「正月だからってごろごろばっかしてんじゃないの! どっかでかけてきなさい!あ、ついでに神社で破魔矢買ってきて!」 ……あー、めんどくさい。 ‐始まり‐ 冷たい風に体の熱が奪われる。 マフラーをまき直し、正月にしてはやけに人通りの多い道を俺は急いで歩いた。 「寒……」 きっとこの先は人であふれてるんだろう。 頼まれごとなど放り出して家に帰ってしまおうか。 家に帰っても待っているのは親の小言だけだということは知っている。 知っているからこそこんなにも憂鬱なんだ。 ため息をついて込んでいる大通りを避けて、一本外れた道に入る。 「……めんどくせぇな、ちくしょう」 小石を蹴り飛ばすと地面を跳ね、乾いた音が鳴る。 「……けっ」 幾人もの人とすれ違った時、ふと後ろから声がした。 「あれ、ナカジ君?」 振り返るとそこにはよく知る人物が俺を見ていた。 「ヒグラシさん」 「うわーやっぱりナカジ君だ久し振り、あけましておめでとう」 ヒグラシさんは俺の家の近くに住んでる親戚のお兄さんで、小さい頃から今迄までとてもお世話になっている人だ。 最近あってなかったから一瞬驚いたけれども、いつもどおりのヒグラシさんで安心した。 「……あけましておめでとうございます」 頭を下げるヒグラシさんに俺も会釈で答える。 「偶然だねー、ナカジ君はどこかに行くところ?」 「……親に破魔矢買ってきてって言われて……」 「破魔矢かぁ、初詣だねいいな、僕も行こうかな」 「えっ、でもヒグラシさんもどこかに行く予定があったんじゃ……?」 「ううん、僕のはただの散歩だから、一緒に行ってもいいかな」 そう言ってヒグラシさんは微笑んだ。 卑怯だ。 そんな顔で言われたらNOだなんて答えられるわけないじゃないか。 「……ヒグラシさんがいいのなら」 「ありがとう、一番近い神社っていったらあそこかな」 ま、一人で行くよりは退屈じゃないか。 俺とヒグラシさんは近くの神社へと歩を進めた。 「うわーさすがに混んでるね」 「……そうですね」 正月の神社はすごいにぎわいで俺とヒグラシさんも油断すればはぐれてしまいそうだった。 人波を押し分け破魔矢やお守りを売っているところになんとかたどり着くことができた。 「ナカジ君は破魔矢だっけ、僕も何か買っていこうかな」 ヒグラシさんがお守りを物色し始めた。 俺はそれを横目に破魔矢を一本引き抜いた。 「そうだ、この縁結びのお守りにしよう」 「……っ?!」 ヒグラシさんの発言に俺は思わず勢いよく振り返ってしまった。 不思議そうな顔で俺を見るヒグラシさん。 「どうしたの?」 どうしてだろう? 自分でもわからない。 「いや……その、縁を結びたい相手がいるのかなって……」 「……うん、今年も音楽を通じていろんな人と縁があるといいなと思って」 ヒグラシさんの発言を聞いて安心した俺がいる。 何故かと自分に問いかけるが、答えは返ってくるはずもなかった。 「……じゃあ俺も縁結び……」 俺もそっと縁結びのお守りを手に取った。 「お揃いだね」 「あ……そうですね……」 ヒグラシさんがお金を支払いながら子供のように無邪気に微笑む。 その顔にふと、心臓が動きを速めたような気がした。 「ねぇ、やっぱり参拝もしていこうよ。 ナカジ君の話ももっと聞きたいな」 「……そうですね」 「あー、今年もいい年になるといいな!」 今年はいい年になるだろう。 俺の心は根拠のない自信に包まれた。 |
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