電車を降りて時計を見ると、時計の針はすでに地球時刻で午前0時をまわっておりました。 ……そろそろ青木さんのお仕事が終わる時間ですよね。 この間クモハさんに教えてもらったおいしい和食のお店、今日はそこに誘ってみようなどと思いつつ改札 を通ります。 駅員室を覗いて見るも青木さんの姿はなく、駅員室の出口の方へと向かったところ、青木さんはそこにい ました。 「青木さ……」 駅員室の出口に、二つの人影。 一つは業務を終え、私服姿の青木さん。 もう一つは、赤いシャツに身を包んだ謎の男。 ……私の青木さんに近づくその男はいったい誰ですか?! −どこからかやってきたその男− 「青木さん、お仕事お疲れ様ですー」 「ああ、こんばんはオクターヴ君」 私は青木さんに同様を悟られないように、そっと近づき相手の男を見ました。 同様にその男も私の方を見ています……サングラスなどして、いけ好かない奴ですね! あ、青木さんのサングラスはいいんですよ、似合ってますからと心の中で言い訳をし、青木さんの方を見 ました。 青木さんはいつものように柔らかい笑みを浮かべながらこちらを見ています。 「ああそうか二人とも会うのは初めてだったよね」 青木さんはその男の方を向き、私のほうに手を向けました。 「この人は、オクターヴ君。銀河鉄道の車掌さんでね、僕の友達」 「初めまして、オクターヴと申します」 私が自己紹介をするとその男は軽く頭を下げました。 次に、青木さんが私のほうを向き、同じように男に手を向けました。 「で、こちらはヒゲランド交通の銀河新幹線部門の運転手さんのF-train君」 「やだなぁ青木さん、Fでいいって言ってるじゃないですか!」 青木さんがその男を紹介すると、その男はおどけたような口調で青木さんに言いました。 運転手さんですか……ずいぶん若く見えますけど、それに青木さんとずいぶん仲がよろしいようで……。 「彼はね、今年から配属された子でね、社員寮の僕の隣の部屋に住んでるの」 何ですって!? なんとうらやましい……違う違う、恨めしい……。 「こんちは、同僚からはFって呼ばれてます」 むむ、言葉遣いがなってないですね。 年上の方には敬語を使うものですよ! その男……Fさんが手を差し出してきたので、私も手を握り返し握手をする。 「……どうも」 「いやー、銀河鉄道の車掌さんですか!じゃあ俺たちライバルみたいなもんですね!」 ……やけにライバルが強調されていたような気がしますけど気のせいでしょうか。 「あっ、駅員室に忘れ物してきちゃったな、ちょっと取ってくるよ」 そういって、青木さんが駅員室に行くと突然、握手をしていた手に力がこめられました。 「いたっ、何するんですか!」 「いやー……あなたがオクターヴさんですかー、俺ずっとあなたに会いたかったんですよねー」 私が驚いて手を振り払うと、Fさんはにやりと邪悪な笑みを浮かべました。 「あの人と話をしてるといっつもあなたの名前が出てくるんですよねー」 ああ、青木さんが私の話を……って違う! 私の背筋を何かぞわりとしたものが這い上がりました。 その刹那、私とFさんの間に電撃がほとばしり、お互いにお互いの立場を理解いたしました。 「……青木さんは渡しませんよ」 「俺だって」 『この人は……ライバルだ!』 目の前の男のサングラスがキラリ、と光を放ったように見えました。 わ、私だって負けませんよ!こんなパッと出てきた男に取られてたまるもんですか! 「……どうせあなたも青木さんを食事にでも誘うとしてるんでしょ?悪いけど、今夜は俺がもらいますよ」 「選ぶのは青木さんですよ……あなた見たいなパッと出てきた人に負ける気はしませんけど」 私とこの男の間になにやら不穏な空気が流れるのを肌で感じました。 むむ……憎たらしい男ですね! 私とFさんはしばらく見つめあっていたように思います。 「……青木さんって時代劇が好きなんですよ、知ってました?俺、青木さんの部屋入ったことありますよ」 「……青木さんってアロハシャツが似合うんですよね〜私、今年一緒に海に行きましたよ」 目に見えない電撃が辺りを飛び回ります。 と、その時。 「あれ〜?オクターヴさんにF君じゃない、こんなところで何してるの?青木さん待ち?」 『クモハさん!』 おっとFさんとかち合ってしまいましたね、いけないいけない。 「そうそう、この前また出張だったんだよね、二人ともこれお土産ね」 クモハさんがニコニコしながら、私とFさんに箱を渡します。 土星まんじゅう……。 「あれ、クモハ君も今帰りかい?」 私とFさんがいきなり渡されたお土産にポカンとしていると、青木さんがカバンを持って駅員室から出て きました。 「こんばんは、青木さん!これ、出張のお土産です」 「ああ、いつもすまないね」 「青木さん仕事終わりですか?どうです、一緒にご飯でもおいしい和食のお店、みつけたんですけど」 ぎょっ。 隣のFさんの顔を見ると私と同じように驚いた顔をしていました。 「オクターヴさんや、F君とは一緒に行ったことあるんですけどね〜なかなか青木さん誘えなくて……ね、 あそこおいしかったよね!」 満面の笑みを浮かべて、クモハさんが私たちの方を向きました。 その顔には悪意のかけらもありません。 「それは楽しみだねぇ、オクターヴ君やF-train君も一緒にどうだい?」 「いいですね!きっと大勢で飲んだほうがおいしいですよ、行きましょうよ!」 私とFさんは思わず顔を見合わせてしましました。 「え、ええ……是非……」 「あ、はい……いきましょうか」 どうやらFさんもクモハさんに同じお店を教えられて、そこに誘おうとしてたようですね。 青木さんの方を向くと、クモハさんとなにやら楽しそうにお話しています。 「しかしクモハ君、奥さんと子供さんはいいのかい?」 「いやー、今子供つれて実家のほうに遊びに行ってましてね、帰っても僕一人なんですよー」 「そうかい、それじゃあ今日は久々に飲み明かすとしようか」 「いいですね!いやー、青木さんと一緒にお酒するのも久々ですねー」 楽しそうに会話を交わす青木さんと、クモハさん。 隣のFさんを見ると、Fさんも所在無さげにこちらを見ていました。 「……一時、休戦な」 「……そうですね」 最大のライバルは、クモハさんかもしれません。 私たちは二人そろってため息をつきました。 |
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